水冷システムを実現するデータセンターの事例
前回ご紹介したこれまでの水冷サミット“DLC Servers & Datacenter Summit(DSDS25)”では、すでに水冷対応を実現した先進的なデータセンターや、今後の市場動向に関する議論が大きな注目を集めました。今回は、その中でも特に注目された3社の事例をご紹介します。
1. Getworksのコンテナー型データセンター
Getworksは、海上輸送コンテナーをベースにしたコンテナー型データセンターで国内トップの実績を誇り、2014年から累計約280棟を展開しています。最大の特徴は「短納期」で、最短2週間から3カ月以内で稼働可能です。
水冷対応を標準化し、GPUサーバーを高密度に搭載できる設計を採用。20フィートコンテナータイプでも最大256基のGPUを収容でき、40フィートの連結タイプでは大規模なクラスター構成も可能なため、AIやハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)用途に最適です。さらに、新潟県湯沢町の地理条件を生かし、雪冷熱や井水、河川水、太陽光など多様な再生可能エネルギーを組み合わせ、電力使用効率(PUE) 1.0xの実現を目指す環境配慮型インフラを構築しています。
設計から運用までワンストップで対応し、地方分散やエッジAIにも、柔軟に対応。水冷運用の安全性にも十分配慮し、8年以上の実績を背景に水漏れリスクを極限まで低減しています。

写真提供:Getworks
2. インターネットイニシアティブ(IIJ)のモジュール型エッジデータセンター
従来型データセンターが電力・冷却・建設地の確保で課題に直面する中、IIJは河村電器産業と共同でAI推論処理に最適な「モジュール型エッジデータセンター」を開発しました。
受電用キュービクルを基盤にした「DX edge Cool Cube」は、幅80~120cm・奥行き200cm・高さ250cmのコンパクトな筐体に19インチラック、冷却装置、無停電電源装置(UPS)を搭載します。既存の倉庫内などへの設置もでき、建築確認が不要な点も大きなメリットで、屋内外に短納期・低コストで設置可能。複数モジュールの連結で柔軟な拡張ができることから、スモールスタートにも対応します。
製造業や医療、自動運転など低遅延が求められる現場での活用を想定。冷却は空冷と水冷のハイブリッド構成で、今後直接液体冷却方式(DLC)導入を目指し、デル・テクノロジーズとの実証も進行中です。

写真・資料提供: IIJ
3. 日本郵船の洋上データセンター
日本郵船は、海上に浮体構造物を設置し、再生可能エネルギーと海水冷熱を活用する洋上データセンターの事業化を進めています。このモデルは、陸上での用地確保や送電系統の制約を回避し、ゼロエミッションを目指す次世代インフラです。
海水を冷却源とすることで高効率な水冷を実現し、洋上風力発電を主電源に、余剰電力は蓄電池やアンモニア燃料に変換して冗長性を確保。耐災害性にも優れ、地震や津波の影響を受けにくい点も特徴です。
2025年内に横浜港で実証実験を開始予定で、現在建築中。2030年の商業稼働を目指しています。データセンターの電力消費増加と再生可能エネルギー出力抑制という社会課題を同時に解決する、革新的な取り組みです。

写真・資料提供:日本郵船
液浸方式の研究--DLCとは異なるベクトル
これまでの連載ではDLCを中心に解説してきましたが、もう一つの次世代冷却の選択肢として液浸冷却があります。液浸冷却は、サーバー全体を誘電性液体に浸すことで、従来の空冷やDLCでは到達できない冷却効率を実現します。誘電性液体は電気を通さないため、基板や電子部品を直接浸してもショートの危険がありません。
液浸冷却の利点として、ファンレス化による騒音低減、空気流路の不要化による高密度実装、さらに冷却効率の向上によるPUE改善が挙げられます。また、液体の熱容量が大きいため、瞬間的な負荷変動にも安定して対応できます。
一方で、課題もあります。液体の管理には定期的な品質検査が必要であり、酸化や微生物の繁殖を防ぐための添加剤管理も重要です。さらに、液体の廃棄や交換には環境負荷を考慮した処理が求められます。誘電性液体はコストが高く、初期導入費用が普及の障壁となっています。
将来的には、液浸冷却とDLCのハイブリッド構成や、再生可能エネルギーとの連携による環境負荷低減が期待されています。特に、液浸冷却はAI専用データセンターやHPC用途での採用が進むと予測されており、標準化団体による規格策定が普及の鍵を握ります。

液浸冷却の概念図
おわりに--熱との戦いは続く
CPU・GPUの進化が今後も進み、それに比例して半導体の消費電力はますます高くなります。画期的な低消費電力化技術が登場しない限り、熱との戦いは今後さらに多くの場所で発生します。その未来に備え、AIインフラを活用する側も提供する側も、水冷に関する情報感度を高め、提供側である場合は新しい生態系の仲間入りをしなければなりません。具体的には、まずは最新のサーバーの進化を知り、顧客の望むシステムを構築するために欠けているノウハウを持つ事業者との連携を進めることが重要です。
DLCや液浸冷却は、単なる冷却技術ではなく、AI時代のインフラを支える基盤です。冷却技術を理解し、適切に導入することが、AIの性能と信頼性を左右する鍵となります。
ここであらためて、これまでの連載に共通するテーマを整理します。
- 技術進化と冷却の必然性
- 水冷技術の発展
- ESG(環境、社会、企業統治)と持続可能性の視点 液浸冷却の概念図
- 生態系形成の重要性
- 上原宏
- デル・テクノロジーズ 執行役員 インフラストラクチャー・ソリューションズ営業統括本部 製品本部 本部長
- 日系精密機器メーカーでの米国・欧州駐在を経て、製品戦略およびマーケティング領域で豊富な経験を積む。大手IT企業ではエンタープライズ製品の責任者として、戦略立案から市場投入、プロモーションまでを統括。現在はサーバーを中心に、顧客・パートナーとの関係強化を通じて、価値創出に取り組んでいる。2025年は「水冷元年」を掲げ、次世代のITインフラを支える「新たな生態系」の構築に向けて活動を推進中。
生成AIや大規模言語モデル(LLM)の登場により、計算資源は従来の数倍から数十倍に膨張しました。冷却は戦略的要素へと進化しているのです。
DLCは現実解として普及が進み、液浸冷却は次世代の可能性を秘めています。両者のハイブリッド構成や再生可能エネルギーとの連携が今後の方向性です。
冷却は環境負荷低減と企業価値向上の鍵です。廃熱再利用や再生可能エネルギー活用、標準化、教育体制の整備など、社会的責任を果たす仕組みが求められるのです。
水冷化は単なる機器交換ではなく、設計・施工・運用にわたる多領域の協働が不可欠です。サーバーメーカー、設備業者、データセンター事業者、行政、ユーザー企業が連携し、新しい生態系を築くことが持続可能なAIインフラの条件です。
2030年に向けて、冷却技術はさらに進化し、AIによる冷却制御や廃熱再利用が当たり前になるでしょう。しかし、その未来は自然に訪れるものではありません。今こそ、協働から共創へと歩みを進めなければなりません。
最後は、AIやテクノロジーの進化に関する予測で世界的に知られ、著書「ポスト・ヒューマン誕生:コンピュータが人類の知性を超えるとき」では、技術的特異点(シンギュラリティ)の到来を提唱し、Googleのエンジニアリングディレクターも務めたRay Kurzweil(レイ・カーツワイル)氏の言葉をご紹介します。この言葉は、冷却技術の進化にも当てはまり、未来を創るための行動の重要性を強調しています。
「未来を予測する最良の方法は、それを創ることだ。」
水冷元年は、未来を創るための行動の始まりです。


