5月20日、サイバーエージェント・ベンチャーズにて「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(九)」と題したトークセッションが行われた。コラムニストの黒川文雄氏が主宰、エンターテインメントの原点を見つめなおし、ポジティブに未来を考える会となっている。
今回は「Unityによるゲームの民主化は共産化か…?!」と題し、1月に行われた「黒川塾(伍)」に引き続きゲーム開発ツール「Unity」について、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの日本担当ディレクター大前広樹氏、イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役の山本一郎氏に加え、今回はユビキタスエンターテインメント代表取締役社長兼CEOの清水亮氏も登壇した。
世界で180万人のユーザーがいるとされている、ゲーム開発環境(エディタ)とゲームの実行環境(エンジン)を合わせた統合開発環境のUnity。その利便性や有用性はすでに多くの人が知るところとなっているが、大前氏は利便性のひとつとして、移植のしやすさを挙げた。あるゲームを制作して例えばコンシューマーゲーム機に向けてリリースをし、仮にそこでは乏しい結果でも別のゲーム機やスマートフォンでリリースをし、さらにチャンスを得られるようになることだ。「ひとつのプラットフォームに捕らわれるよりも、いろんなプラットフォームに対応してチャンスが増えたほうがいい。そのような展開の促進ができれば」(大前氏)。
また開発の敷居が下がったことにより、個人のクリエイティビティが発揮できる土壌が生まれており、大手メーカーやプラットフォームが重厚な大規模ゲームを出すことに集中していたが、個人のクリエイティビリティに期待し始め、取り込みたい気持ちがあるという。実際に2013年のGame Developers Conference(GDC)で行われたGame Developers Choice Awardsでは、インディーズゲームも名を連ねるような状態になり、面白いゲームが生み出されている。
こうした状況を踏まえ、大前氏は昔はゲームソフトやアプリがプラットフォームに縛られているような状態だったが、今はソフト側がプラットフォームより強く、そのアプリやゲームを成功させるために自ら作って考えてリリースできるような時代になっているとし「それを民主化と言うのであれば民主化になるかもしれません」(大前氏)
山本氏は、ソフト側とプラットフォームの力関係が変化してきていることは認めつつも、ビジネス面から見てプラットフォームを通さないと決済ができずビジネスとして成り立たないため、未だプラットフォームのほうに重きはあると指摘。また個人のクリエイティビリティが発揮できるがゆえに、Unityが統合していかないとコンテンツが作り出せない流れになるという。アジャイルとUnityを組み合わせてうまくいかなかったことがあるエピソードを例に挙げ、「挑戦的な開発体制を組んで失敗することもとても大切なこと。ほかのテクノロジに応用したり、開発体制をプラットフォームにより適合させていくなどのマインドを持っていかないと、テクノロジディレクションはできない」(山本氏)。
清水氏はUnityに関して、2008年から触り始めそのときの印象として「ゲーム開発をゲーミフィケーションしている」と感じたという。その一方で「3Dで物を作らなければいけないのか」とも感じ、扱うのを止めたという。ゲームの表現方法としての3Dは決して珍しくないものの、例えとして「テトリスをUnityで作れると思うけど、怪盗ロワイヤルをUnityで作る人はいない」というように、全ての根底を3Dで作ることを考えると、ハードウェアやゲームのベースが2Dであることが多く、取りこぼす影響が大きいと当時は考えたからだという。
経営者の立場としてプラットフォームに依存しないことは嬉しいこととする一方、「クリエイターの立場とするなら、プラットフォームを選ばないという時点で魅力が無い」(清水氏)と、平準化してしまうことを危惧として付け加えた。ハードを突き詰めて一枚でも多くポリゴンを出す、フレームレートを上げるなどの熱量やチャレンジ精神をかつては感じられた時代があったと振り返り、Unityが便利だからこそ、それで普遍化してしまうのはいいこととしつつも「寂しいことかな」と感じるとしている。
山本氏はUnityについて、業界において一気に普及して「今はUnityのターン」というべき状態なのだが、例えば次にクラウドゲームの時代がきたとき、今のUnityでもっているプロパティがどこまで活かせるのか、対応させるために作った組織でどこまでできるのかと考えると、まだ見えない状態にあり、漠然とした不安があるという。
清水氏は「そもそもUnityが民主化したとは思ってない。オープンソースだったら民主化と言えるけれど、一部のエリートが中枢を握っているような官僚型社会主義だと思う」と見解を示した。極端な例えになるが、悪意のある会社が買収をし、妨害のためにUnityをいきなり使えなくする可能性もあることを示唆した。もちろん未来の「たられば」を言い出せばキリがないものの、清水氏は、あまりもうけようと感じさせないUnityのビジネスモデルはピーキーで危うく見えるとも語っていた。
ちなみにユビキタスエンターテインメントはゲームエンジン「enchant.js」を提供しているが、これはオープンソースとしている。この意図は、仮に清水氏が同社を離れても、自ら使えるようにするため。さらにユーザーが不満に思う箇所があっても自分で直せるようにして進化することが可能と説明。そして清水氏はこのことを例に挙げ「Unityは自由度や拡張性は高いとはいえ、不満のある箇所を自ら直せないのはフラストレーションが溜まるし、民主化されたとは言わない」という。
山本氏は先ほどの自らの意見や清水氏の意見を踏まえ、Unity依存の危険性を指摘。プランBというべき体制を用意しないといけないのに、Unityでないと使えないという若手の開発者も出始めていることに不安があるという。大前氏はこの意見を受けて「Unityのオープンソース化が、回避策としていいとは思っていない」とし、例えば、開発5ラインのうち1ラインをUnityを使わずに行う。1ラインしかない場合でも全体の20%で何かしら新しいチャレンジを行うといった、新たな取り組みを行うことの投資の必要性を語った。
山本氏もプロジェクトや製品として求められていることの近道や対費用効果を考え、Unityが最適な手段だと導き出される事例は当然あるとしながらも、そこで安易に選んでいいのかを一度立ち止まって考えるべきであり、そこを考えないためUnityしか使えない人が出てくるとも指摘。清水氏も、Unityはプログラム言語ではなくあくまで開発環境であり、開発者が自らの表現手段としてUnityしかできないことは、果たしていいのかと疑問に思うと付け加えた。
もっともUnityが有用なツールであることは間違いなく、清水氏は「ゲーム開発チームにおける大きな不満となることは、プログラマーがやっつけで作ったツールを使わされること」とし、不自由な環境下で作業を強いられる悪夢からの開放したことは素晴らしいと認め、大前氏もゲーム作るためのワークフローの合意形成を180万人規模でできたことは、ゲーム開発手法としての民主化ができたのではないかと語った。
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